エロゲを技術論的に共有する 続の三 『プロット作成』

今回は"2.プロット作成"についてです。

エロゲのプロットとは、ゲーム中に出てくる(システムメッセージ以外の)全てのテキストについて、その概要を記した物です。ゲームのジャンルによって書式や必要な要素も違ってくると思いますが、ここではADVのプロットについて書こうと思います。エロゲはADVが多いですし、他のジャンルにしてもADVな流れの上に乗っていることがやはり多いから……と、俺の経験的な問題で。

ADVの場合、ゲーム中のほぼ全てのイベント(ゲーム内で起きるあらゆる事象――ゲームエンジンの動作的な――を指します)はスクリプトに記述されるので、つまり、ゲームの動作のほぼ全てがシナリオに帰属することになり、結果、プロットにはゲームの開始から終了までのシークエンスが書かれます。これを業界的に(?)"箱書き"と言います。"プロット"の別表現でもありますが……。ただし、"箱書き"にはシーンの内容は書いておらず、そこにシーンがあることを示すだけです。

何のためにそのような物を作るのかと言うと、プロット作成を複数のシナリオライターで行うことがあるからです。攻略ヒロインが多かったり、人数をかけてでも制作期間を短縮したい時には良く行われます。この場合、メインのシナリオライター全体の構成を決め、箱書きを作り、個々のシーンは担当ライターが内容を書く、という体制になります。しかし他ライターが書いたプロットの中身を把握することが難しくなりますので、他ライターのシーンが別のライターのシーンの分岐の理由になったりなどの、複雑な分岐構造にはならないようにします。管理要素を増やしては「制作期間の圧縮」という目的の妨げになってしまいますから。

さて、実際の作業についてです。

現在のエロゲは、一つのスタートから複数のエンディングに分かれていく、フォーク型のシナリオ構造が主流ですが、この「あるプロローグから始まり、選択肢を選んでいくうちに特定のヒロインのエピローグに辿り着く」という形式を実現するために、まず、仕様書の各キャラのあらすじを整理して物語の転機となるシーンを割り出します。それらキャラ毎の重要なシーンは、順に一本道でユーザーに見せると酷く矛盾した物語になるものなので、特別の状況(ハーレム状態のような)を除いては、選択肢等を利用して一つの話の中では重複しないように配置します。イメージ的にはこんな感じです。

以上の大まかなシナリオ構造は、シナリオ全体の基本的な枠組みとなります。この枠組みの形には、ツリー型、ちょうちん型などいくつかあります(名称は俺流)。前述の図はツリー型のイメージです。この枠組みをさらに細かく、ゲーム中の実際のシーン単位まで書き込んだ物が"フローチャート"です。実物のフローチャートは図よりももっと入り組んでいますし、分岐管理フラグが設定してあり、そのフラグによる分岐もありますけれど。

またプロットの方にも、それら同様の細かい指定を、シーン内容と共に書いていきます。プロットは、テキストを書くライターへの指示書、という性格が強くはありますが、その他にも分岐を管理するのに使ったり(分岐パターンが抜けてたりする場合もあるので)、テキスト作成の進捗管理にも使います(プロットのシーン数を元に進行度を把握する)。なので、シーン内容が書き込まれていない"箱書き"だけでも、プロジェクトの管理には重要です。そういう他人が読んでもストーリーが分からないプロットは「俺プロット」などと言ったりしますが。笑。

もっとも"箱書き"のみだと、次回に述べる予定の"3.字コンテ作成"の際に困る(必要な背景やイベント絵がわからなかったりして、汎用的な背景しか用意できなかったり、イベント絵が表示されるシーンが連続してしまったり、バランスの悪いことになったりする)ので、なるべくなら「誰が、どこで、どんなことを、したのか」くらいは欲しいところです。

作業としては以上なのですが、8000円とかの価格で売られるようなエロゲは、シーン数で2〜300シーンほどになり、プロットもプレーンテキストで200キロバイトくらいになったりします。200キロバイトというのは400字詰め原稿用紙で400枚くらいなので、結構な量ですからそこまで時間を掛けられない時は、やはり"箱書き"だけで済ませます。最低でも"箱書き"は用意すべきです。それすらないと、シナリオ作成の進行度すら計れず管理もままならず、締め切りに間に合わなくなったり……。

最後に書式的なことを。プロットの各シーンには、"ファイル名""そのシーンに登場するキャラクター""シーンの時間帯""シーンの場所""シーンの概要"という基本情報と、シーンの具体的な内容次に行くべきファイル名を書きます。あくまで俺はこの書式だったという程度の意味ですが、参考になれば良いのですが。

プロットの項はこれで終わりですが、「シナリオの構成法」のような教則的なことを期待されていた方がいたら申し訳ありません。そういうアプローチは苦手なので……