エロゲを技術論的に共有する 続の四

えー、いい加減工程解説をするのにも飽きてきました。そろそろ工程管理やスケジューリングの議論をしたいです。笑。なのでそろそろ加速していくよー。……ていうか仕事に、ね……


"3.字コンテ作成"

字コンテと書いていますが、ここでは各種発注書・指示書を指します。具体的には"立ち絵字コンテ","イベント絵字コンテ","移動用背景字コンテ","BGM発注書"です。

以前書いた通り、それぞれ発注できる数は仕様(予算)で決まっています。が、CGの枚数は総数で数えていますので、この時点(発注前)であれば各枚数の微調整が可能です。イベント絵を減らして立ち絵を増やしたり、プロットから背景が想定以上に必要なことが判明して泣く泣くイベント絵を削って背景に回したり、なんて事も場合に寄ってはあります。企画の方向性を鑑みて判断します。フルプライス(小売り値8800円クラスのタイトル)だと、立ち絵とイベント絵合わせて80枚が下限の目安です。背景はそれらとは価格が違うので(つまり原画家に描かせるか否か)、枚数計算が微妙に違います。そしてBGMは、スタッフにBGMに対する思い入れがない限りは、もっとも圧迫される部分であったりもします。

ここの作業は、基本的にシナリオライターが行います。俺はそうでした。余所さんでは他の方がする事もあるかもしれませんが……複数人ですることもある工程です。主にキャラ毎サブライター制を取っている場合です。その場合は、各キャラの立ち絵とイベント絵の字コンテは、担当ライターが書くことになります。移動用背景やBGM発注でも、サブライターとして欲しい物がある時は、当然意見を伝えます。

実作業ですが、まず立ち絵の作業から入ります。エロゲ制作の中でもっとも時間が掛かるのが、グラフィックリソースの作成ですが、後々の動作チェックや体験版作成の事を考えると、基本的なパーツである、立ち絵と移動用背景がもっとも早い段階で欲しいグラフィックリソースだからです。なので、なるたけ短い期間で作ろうとすると、

立ち絵字コンテ → 移動用背景字コンテ → イベント絵字コンテ → BGM発注書

の順で作ることになります。原画家が内部にいる場合、その絵を描き出すまでは差し替えができる、と思って"イベント絵字コンテ"の完成が最後になることもありますが。


"立ち絵字コンテ"
背景と組み合わせて使う、人物のみの絵を、文字で表現した物です。ポーズ、表情、服装について書きます。この時点ではキャラクターデザインが上がっていないことが多いので、原画家のイメージを狭めないよう、あまり細かくは書きません。また、様々な場面で使うことを想定して、特徴がありすぎる表情やポーズにはしないようにします。が、キャラクターの性格を考慮して、ポーズや表情の付け方(笑い方や怒り方には、キャラ性が表れます。口を押さえて笑うか、大口開けて笑うか、等)を考えつつはしますが、キャラデザの方には、そこを敢えて無視してキャラらしさを出して貰いたい……と思うのは我が儘でしょうか?

ちなみにここで、経験のない方にはわかりにくいかもしれませんが、「カット」という概念が出てきます。「カット」とは線画の数え方なのですが、同じ線画をベースにして少しの描き直しだけでできる線画は、ベースの線画と「同じカット」として扱います。"少しの"とは、"表情の違い"くらいです。そして「同じカット」のCGは一枚のCGとして扱いますので、表情が増えても予算に変化はなかったりします。……とは言っても作業量は増えるので、非常識な数の表情差分になると代金を請求されます(通常+喜怒哀楽+1,2くらいなら許されるかなぁ)。また、ポーズが変わったり、服装が違ったりすると、別カット扱いになります。これは線画の修正量よりも、着色の際の手間が多いためです。また時間差分(昼パターン、夜パターンとか)は、同カット扱いです。

字コンテの書き方も、上記のカット単位で書きます。カット毎に、ベース(の説明)+差分(ベースとの違いの説明),差分(ベースとの違いの説明)...と書いていきます。立ち絵の場合は、ベースではポーズと表情、差分では表情、です。ポーズや服装が変わったら、別カットにして同じようにポーズと表情差分を書いていきます。

他のポーズや服装と同じ表情でも、最終的にCGにしてもらうなら、ちゃんと書きます。言ってみれば字コンテは、最終的なグラフィックリソースがどれくらいになるか? の基礎資料だからです。グラフィックリソースの進行管理は、字コンテ(から割り出されたCG枚数)を元に行います。

ただし、時間帯毎に立ち絵のCGを用意する事がありますが(昼と夕方じゃ色合いが違うからー)、これを字コンテにすると、くだらないコピペをする羽目になりますから、別紙に「それぞれ昼・夕・夜の色パターンを作って」と書き添えて済ませます。それで済まない連中は勘弁です。大きいサイズや小さいサイズを作るときもそんな感じです。

あと、重要な事に"ファイル名"があります。同じファイル名のCGがあると困った事になりますので、重複しないように気をつけます。とは言っても、だいたい

立ち絵を示すコード + キャラクターのコード + 服装のコード + 表情のコード

という文字列になりますが。これはファイル名の命名規則は仕様で決められているので(仕様の解説時には書きそびれた気がしますが)、それに従って機械的命名します。その方が管理しやすいですから……って俺が理系畑だからですかね?


"イベント絵字コンテ"
立ち絵と同様にカット単位で書いていきます。表情は同じカット、ポーズや服装が変わったら、同じ構図,レイアウトでも別カットです。背景が異なる時も別カットです。強引にねじ込んで同カットにさせたことはありますが(苦笑。絵のサイズが立ち絵よりも大きいので、差分の数は立ち絵よりも厳しい扱いになります。最近のエロゲは、1カットにつき、2.3枚の差分は当たり前ですが、みんな頑張りすぎですよ……

エッチシーンで表示するイベント絵も、当たり前ですがここで指定します。つまり、エッチシーンの構成は、この時から想定します。そのヒロインにぴったりなエッチシーン、外せないお約束、どんな表情で感じるのか、フィニッシュの体位は……など、エロゲを作るうえでもっとも楽しい時間かもしれません(笑。

工程の概要でも書いたように、俺はシーンイメージよりも具体的な説明(構図,レイアウトや主要なオブジェクトの位置)を書くようにしています。本当はイメージだけ伝えて、原画家にふくらませて欲しいのですが、打ち合わせや伝達コストを考えると、どうしても具体的な説明の方が手間が掛からないからです。だから原画家さんのラフが、こちらの指定を無視したもので上がってくると、「わかってくれてるっ!」と嬉しくなります。

ちなみにイベント絵のうち、原画家は人物線画のみ描く場合が多いです。背景は別の人が描くので、背景についてもそれなりに書いておきます。移動用背景と共通な場合はそのことを付記し、そうでない場合はそうでない旨を書いたうえでどんな場所かを書きます。


"移動用背景字コンテ"
立ち絵と組み合わせて使用する背景CGの字コンテです。こちらも他と同様にカット単位で書きますが、キャラはいないので表情差分はありません。時間帯差分と、モブ(背景にいるキャラと無関係な人間たち)の有無のみです。モブがいる場合は、どんなモブかの説明も書きます。


"BGM発注書"
作曲担当者に、ゲーム中で使用するBGMがどのような曲であるかを伝える指示書です。企画のイメージ、そこから想起される音楽全体の雰囲気と、各楽曲についての説明があります。ボーカル曲がある場合も指定しておきます。

各楽曲には、ファイル名,楽曲の説明,使用意図,曲の長さ,などを説明として書きます。使用する楽器やテンポなど具体的に書くこともありますが、俺は音楽に詳しくないので、CGとは違って純粋にイメージでしか発注できません。ほんと、悔しいです。Keyさんのゲームとかやると絶望します……嫉妬します……

ボーカル曲は、フルコーラスとは別にショートバージョンも同時に作ってもらいます。発注書には別ファイルとして書いておきます。もっとも、ゲームに収録されるのはショートバージョンのみの場合が多いですが。これ、ショートしか作ってもらわなかった場合、安くなるんですかね……


以上、それぞれについて上長(まあディレクターだ)のOKが出れば、完成です。で、最後に"絵コンテ"について。

"絵コンテ"は、原画作業に入る前に、字コンテの情報を具体的に"絵(ラフ)"にした物を作る作業です。絵コンテの絵を描く人と原画家が同じ場合、絵コンテ作業をしない場合もあり、絵コンテと偽ってラフを描く事もありますが、違う人の場合、絵コンテ作家と字コンテ作成者が打ち合わせを行い、イメージを伝えたうえでレイアウト絵を描きます。

これは、立ち絵,イベント絵,移動用背景のいずれにも行いますが、また、イベント絵のみに行うこともあります。なんと言いますか、俺自身も色んなパターンを経験したので、一概には言いづらいです。

人物のポーズと表情、構図とオブジェクトのレイアウトがイメージできる程度の、本当にラフい絵を描きます。まれに具体的に(漫画の1コマくらいに)描き込まれた絵が来る時もあります。差分については、ベースと異なる部分だけ描きます。上がった絵について字コンテ作成者が確認をし、問題なければ納品、あった場合はリテイクし、問題なくなるまで詰めていきます。納品された絵を字コンテに貼り付ければ、絵コンテの完成です。ちなみに字コンテも絵コンテも、最終的にはexcelファイルとかになります。自分用には印刷しますけど。

何のために絵コンテを作るのか?

難しい問題です。絵コンテがあろうとなかろうと、原画家は線画に入る前にラフを描きます。絵コンテがある場合は絵コンテに従って、ない場合は字コンテ作成者と打ち合わせたうえでラフを描きます。原画家は絵コンテがあった方が楽だと言いますが、工程は増えていますので、絵コンテによって原画家のラフ起こしの時間が十分に縮小されていなければ、絵コンテの意味はどれほどあるのか……。絵コンテの過程で字コンテのミスが発見されることもありますが、そんなクロスチェック的な機能で良いのか? 字コンテ作成者と原画家の距離が十分に近ければ、絵コンテは必要ないのではないか? 思うことは色々ありますが、サンプリングが少ないので判断できません。俺は外注の原画家との仕事が多かったので、基本、絵コンテを作っていました。



と、今回はここまで。